華氏119

昔、レイ・ブラッドベリの「華氏451」という小説があり、それにあやかって作られた映画がマイケル・ムーアの「華氏911」(ナインイレブン)。今回はトランプが大統領に選出された日付(11/9)に置きかえて「華氏119」。整理しておかないとなんだか分からなくなる。

この映画は、要するにトランプがなぜ選出されることになったのか。それはどういう意味を持ち、今後どのような事態が想定されるかということを言いたいのだと解釈。それに、ミシガン州の水汚染問題を副テーマのように絡め、話もあっちにいったりこっちに来たりするので、やや散漫な印象。最も、この水汚染の話などは日本にはほとんど伝わってこないので、貴重な情報ではある。が、まとまりとしてなら、「世界侵略のススメ」の方がよかった。要するに最も主張すべきは、「みんな政治に絶望せず投票に行こう。行けば本来の多数派の意見は反映される」ということで、それは作品の中盤あたりで言ってしまっており、あとは蛇足みたいなもん。トランプをヒトラーに重ねあわてたくなる気持も分からないではないが。

今回、よかった、というかやはり上手いと思ったのは、みんなをその気にさせる演出だ。特に導入部。選挙戦前夜から当日にかけての、ヒラリー陣営の勝利を確信した浮かれっぷり。その後どうなったかを知っている我々はタイムマシンで過去に戻ったが、結果を変えることも、彼らに伝えることもできない虚しさ。「どうしてこうなった?」に観客の感心を誘導するところはさすが。

それから、これが公開されたのは丁度アメリカの中間選挙の直前だった。中間選挙では、民主党に若い、新しい議員たち(特に女性)が誕生した訳だが、マイケル・ムーアは敏感にその動きを嗅ぎつけて紹介している。メインで紹介されたバーニー・サンダース・チルドレンのアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏は見事当選。まあこれは予言というより、後押しというべきか。

それから、例の銃撃事件に絡んで、エマ・ゴンザレスの無言の6分間(映画ではやや編集して短め)が紹介されているが、これはムーアの功績というより彼女の力に負うところが大きい。それでも彼女を中心とした若者たちが、政治を変えられるというパワーを示したことを、映像で見せられたのは、将来への希望につながる終わり方だった。

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